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コラム「不動産を使った相続対策に課税処分 総則6項適用」


 

相続税対策における重要なテーマのひとつが、

実際の価値よりも評価が低い資産に組み替える、ことです。

 

生命保険を使った評価減のプランは、ほぼ網がかかってしまい、

現在は、不動産を使うしかないというのが定説になってしまいました。

 

しかし、この定説が覆されるような審判の結果が公表されています。

 

この審判の内容と、相続対策提案の注意点を確認してゆきましょう。

 

~目次~

1.国税不服審判所 平成29年5月23日裁決 の概要

2.裁決の背景

3.地域金融機関はどう対処するか

 

1.国税不服審判所 平成29年5月23日裁決 の概要

 

 

審判の内容が、下記の国税不服審判所のサイトに掲載されています。

http://www.kfs.go.jp/service/JP/107/07/index.html

 

しかし、伏字と専門用語が多く、状況がよく理解できません。

 

一部想像を含めて、本件の経緯を時系列でまとめてみましょう。

 

 

平成20年  頃   父の相続対策を検討していた法人代表者Aさんが、銀行に相談。

           銀行は、借入による賃貸物件の購入を提案。

 

平成21年 1月   銀行の紹介により、賃貸マンション2棟を購入。

           相続評価は、購入価格の30%未満に圧縮された。

 

平成24年 6月   被相続人死去 相続開始

 

平成25年 3月   2物件のうち1件を売却

         

平成25年 4月   通達評価により相続税申告

           (一般的な、路線価・固定資産税評価による方法)  

 

平成27年 8月頃  税務調査  

           不動産鑑定評価により時価評価を算定

 

平成28年11月頃  課税処分

 

 

注目したいのは、

相続開始の直前ではなく、3年5ヶ月程前に物件が購入されていること、

そして、おそらく1物件は、税務調査まで物件が売却されていないことです。

 

これまで、通達評価が認められなかったパターンとは大きく異なるのです。

 

          

 


2.裁決の背景

 

公表されている裁決の「事実」の欄には、経緯の詳細が記されています。

 

 認定事実

 原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

   (イ) 本件被相続人が本件各不動産を取得した時期は、本件被相続人が○歳となり、        

      Q社の事業承継についてR銀行に対し相談し、その事業承継のための方策の一環として

      請求人Kと養子縁組した時期に近接した時期である。

 

   (ロ) 本件被相続人は、R銀行から○○診断結果の報告を受けた際、借入金により

      不動産を取得した場合の相続税の試算及び相続財産の圧縮効果についての説明を受けていた。

 

   (ハ) 本件被相続人が、上記1の(4)のロの(ハ)及び(チ)の金員の借入れを申し込んだ際に、

      R銀行の担当者は、それぞれ「貸出稟議書」と題する書面を作成したところ、

      当該各書面には「採上理由」として相続対策のため不動産購入を計画、

      購入資金につき借入れの依頼があった旨及び相続対策のため本年1月に不動産購入、

      前回と同じく相続税対策を目的として収益物件の購入を計画、

      購入資金につき借入れの依頼があった旨の記載があり、本件被相続人は、

      上記の金員の借入れを申し込むに際し、R銀行との間で、金員の借入れの目的が、

      相続税の負担の軽減を目的とした不動産購入の資金調達にあるとの認識を共有していた。

 

ここまで詳細に経緯が記載されていることから、税務署の求めに応じて

金融機関は行内に保管していた提案書や稟議書を提出したということでしょう。

 


この裁決事例のポイントは、銀行の提案書によって節税目的の不動産購入であったことが

明らかになってしまったことにあります。

審判所は下記のように判断しました。

 

・不動産の取得から借入までの一連の行為は、相続税の負担軽減を主たる目的として行ったものであり、

 他の納税者との間での租税負担の公平を著しく害し、相続税の目的に反するものである。

 

これが、伝家の宝刀とよばれる、「総則6項」の適用です。

 

 

3.地域金融機関はどう対処するか

 

今回のケースは、銀行借入によって土地建物の1棟物件を購入したものです。

しかし、この裁決事例に則れば、

世の中にあふれる相続対策のためのアパート建築までも

「租税負担の公平を著しく害する」と判断される可能性もあるのです。

 

特に、本業で苦戦が続く地域金融機関にとって、

相続対策の提案は、融資の重要なテーマの一つです。

 

 

リスクを負うのは顧客ですから、

地域金融機関も相続対策提案のプロを育成し、

銀行全体でリスク感覚を養うことが大切になるでしょう。

 

今後の金融機関による相続対策提案が、どのように変わってゆくのか

注目したいと思います。

 

 

 

 

 

公開日: 2018年07月15日 15:56

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