1.優良企業の社長の悩み
「中小企業経営者の悩み」ときいて、皆さんはなにを思い浮かべるでしょうか?
目先の資金繰り、日々の営業、取引先開拓、人材採用や育成、などなど・・・
社長との打ち合わせのなかで出てくる日常的な話題が多いと思います。
一方、業歴が長い優良企業の二代目や三代目の社長との会話では、どうでしょうか?
事業規模が大きく、経営が安定している様子だと、まったく悩みがないように見えるかもしれません。
きっかけが見つからず、つい生命保険を商品性だけで提案したくなるところですが、
優良企業であるほど、金融機関や顧問税理士からも保険のアプローチがあり、
なかなか主導権を取れないことも多いのではないでしょうか。
このような場面で、ぜひ皆さんに身に着けておいて頂きたいのが、自社株の「議決権」の知識です。
その理由は、会社の業歴が長くなるほど、相続や事業承継の過程で自社株が分散し、経営者が悩んでいる可能性が高くなるからです。
では、まず議決権の基本的な知識を確認いただくために、可能な方はこちらの動画をご覧ください。
上記の動画では、議決権割合は一般的に発行済株式総数に占める(所有する)株式数の割合であると説明していました。
一般的な株式会社は、普通株式1株につき1個の議決権となっており、これが初期設定というイメージになります。
ほとんどの会社は、会社を設立して以後、この初期設定を変更することがありませんので、
所有株式数=議決権数 となっており、議決権割合を株式数から計算できます。
この一般的な株式会社のケースでは、法人税申告書を見せていただくことで、株主構成を把握できるのです。
2.特殊な株式を知っておく
一般的な株主構成の確認方法をお伝えしましたが、近頃では、相続対策や資金調達など様々な理由で株式数と議決権数が同じではない場合があります。
株式数と議決権数が一致しない場合として考えられるのが、次の3つのケースです。
1.種類株 を導入している場合
2.属人的株式 を導入している場合
3.単元株 を導入している場合
1の種類株とは、株主の権利に“優劣”や“制限”が付けられた株式をいいます(会社法108条)。
このうち議決権について制限が付けられた株式に、“無議決権株式”というものがあり、この株式には、名前の通り株主総会での議決権がありません。
無議決権株式は、経営に関係ないような株主に持ってもらうことがよくあり、議決権はない代わりに配当金をたくさん出しますという、「配当優先無議決権株式」の形で、主に相続対策として、分散した株主対策で使われています。
2の属人的株式とは、人に紐付けて、株主ごとに、その権利に強弱が付けられる株式です(会社法109条第2項)。
例えば社長の持っている株式1株については議決権を2個与える、とすることができます。属人的ですので、その人から株式が離れるとその効力は消えます。
例えば属人的株式を設定された社長に相続が起きた場合や、その株が他の人に譲渡された場合には、もとの1株=1議決権に戻ります。
3の単元株とは、例えば1単元=100株などと、一定の株式ごとに、1単元とまとめて、1単元につき、1議決権とすることができる制度です(会社法188条)。
これは発行済株式数の多い上場会社等で、主に株主の管理をしやくするため等の理由で導入されています。
ただし、単元に満たない株(単元未満株といいます)については議決権が認められません。
なお、1の種類株と3の単元株は、会社の謄本に記載されているので、誰でも見ることができます。
一方で、2は定款に記載されているだけですので、会社に依頼しないと確認することができません。
もし、お客様の会社謄本で、種類株が導入されているようであれば、その種類株の内容により、会社の置かれている状況・背景を推察することができます。
このようなことから、既に対策がされている会社であれば、事前に会社謄本を入手することが重要となっています。
3.まとめ
以上のように、「議決権」は税務と法律にまたがる分野であり、顧問税理士だけでは解決が難しい課題です。
それゆえに、悩みを抱えている優良企業の経営者が多くいらっしゃいます。
解決のためには、専門家が時間をかけて対応してゆく必要がありますが、もちろん皆さんがそれを行う必要はありません。
基本的な知識を持っておき、経営者から議決権に関する悩みを聞くことができるだけでも、大きなアドバンテージを得られると考えています。