2019年は、生命保険業界にとって大変革の年となりました。
「まさかこんな事態になるとは夢にも思わなかった」とのお話を多くのプランナーの方から伺いました。
全損が売れなくなって次はどうしようか・・・
何か良い販売スキームはないか・・・
巷では、こういった話題が多いのですが、今回は税理士の立場から、もう少し視野を広げ、税を含む世の中の大きな流れを考えてみたいと思います。
1.全損の保険とは何だったのか
以前よりお伝えしていたとおり、全損の保険で利益を繰り延べることで法人税の節税効果が得られるケースは稀であり、設計書に記載の「実質返戻率」は、ごく限られた条件でのみで実現する数値でした。
繰越欠損金や繰戻し還付という制度がある以上、「損とぶつければ…」という前提条件はなかなか実現させるのが難しいのです。
そして、経営者の多くは、生命保険に節税効果はなく、単なる利益の繰り延べであることを理解して契約していたように思います。
当局にもその実態は分かっていたはずであり、だからこそ、全額損金の定期保険が黙認されていたはずです。
法人の生命保険に”節税効果はない” 終身保険で良い理由とは(コラム)
では、なぜ今年になって通達が改正されることになったのでしょうか?
この答えは、新聞に書かれているような「節税保険によって税収が減ってしまうから」といった表面的な話ではないでしょう。
例えば、大手金融機関までもが“節税”という言葉を容易に使ってしまう風潮への危惧や、さらに、もっと根底には「そもそも、中小企業のためになっていないのでは?」という、国としての問題意識があったのではないかと感じています。
一般消費者に誤解を与えるような営業手法は、以前よりも早く正しい方向に是正される世の中になっていると感じます。
2.法人を取り巻く税制の環境
では、オーナー社長の本当の課題や悩みとはなんでしょうか?
売上や資金繰り、人材採用や労務管理に悩む社長が増えている一方で、節税のご相談は一昔前に比べて、ずいぶんと減ったように感じます。
社長が決算対策で頭を抱えるというのは、いつのことだったのでしょうか?
法人税の実効税率のデータ*を見てみますと、10年前(平成21年)には、法人実効税率が39.54%であったのに対し、令和元年現在では、29.74%まで下がっています。
この10年間で、経営者の決算対策の感覚は大きく変わりました。
*平成30年度東京都税制調査会(平成30年7月2日付資料)より、資本金1億円超、標準税率適用法人の実効税率
さらに、もう少し長期のデータを見ると、法人税の減収分が消費税の増税で補われていることが分かります。
[税目ごと税収データ]
【所得・消費・資産等の税収構成比の推移(国税)】(財務省HPより)
税負担が、法人から個人に急激にシフトしたことがお分かり頂けるでしょう。
そして、海外との競争を考えると、今後も法人税の引上げは難しいと言われています。
一方、所得税は、給与所得控除の削減など、年々負担感が増しています。
個人の税収をさらに増やそうとすれば、次は資産課税(相続税)がターゲットとなるでしょう。
3.世の中の流れ
これから、日本は急激な人口減少時代に突入します。
今後15年間で、日本の人口はピークの2010年から、なんと1650万人も減少すると見込まれています。
これは、おおよそ九州と四国を足した人口が消えることになります。
(出典)2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を除く)、
2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位推計)
このような中で、社会保障費用は、さらに増加することが予想され、これを賄う財源確保のために、税制は、「公平・中立・簡素」を基本とした改革が検討されています。
したがって、課税ベースの拡大など幅広い負担を求めながらも、所得や資産の「再分配機能の強化」と称した富裕層への課税強化が行われるでしょう。
このような財源確保の動きから、昨今、課税当局による「行き過ぎた」節税策への課税強化・封じ込めの動きが見られます。
今まで大丈夫だったから、税法通りにやっていれば安心、と言う時代は終わりました。
経営者の悩みは、法人税の対策から、消費税や社会保険料の負担、働き方改革による労務問題など、大きく分野が広がっています。
これからは、経営者の多岐にわたる課題に対し、幅広くアドバイスできることが皆さまのアドバンテージとなるでしょう。
税理士 萩原睦美